白い空に色彩を
01
02
02 心で動く小さな歯車
「ここよ」
そう言って三浦さんはオシャレなお店に入っていく。オシャレと言っても新しいわけではなく、古い西洋を思い出させる外見だ。その古っぽさが何とも言えないロマンチックさを醸し出している。
まだ少し時間が早かったのか、お客はぱらぱら程度。このお店は雑誌によく載るようで夜はかなり混むらしいけど。
「佐倉さん、お店に入らないの? 早く入ってよ」
苦笑気味に三浦さんが笑いながら言う。建物の外見の造りがあまりにも自分の好みとあっていたものだからずっと立ち止まっていたらしい。自分自身そんな気はなかったのだが。
三浦さんに急かされて小走りで中に入っていく。大学の友達との集まりだけあって予約しているらしい。
「おー! 三浦こっちー」
三浦さんを発見して角にある4つのテーブル席を確保しているグループの1人が手を振りながらこっちを見ている。
男性3人。まだ女性メンバーは来ていないようで席もかなり空いている。じろじろと刺さる視線は蜜柑にあてられたもので蜜柑は軽く頭を下げた。
「この人は会社の同僚、佐倉蜜柑さん! 人数足りないと思って連れて来ちゃった」
にこりと笑う三浦さんの言葉に集まっていた面々は「おぉ!」という声と共に拍手が響いた。そんな大層な人間ではないと思いながらも精一杯の笑みを作った。
見た感じ三浦さんはかなり男性たちから好かれているようだ。当たり前だろう、いつも笑顔で気配りもできてノリもいい。こういう場でも目立つ立ち位置にいる人なのだろう。
蜜柑は三浦さんの隣に腰掛けた。男性たちは三浦さんと少し話したあと蜜柑の元へ寄って来た。
「ねぇねぇ彼氏いるー?」
そう言いながら携帯を取り出して「アド交換っ」と蜜柑にむけて笑った。
数回、他愛のない会話を交わしたら男性2人は三浦さんの方へ行った。
けれど1人、小林と名乗った男性は傍にずっといる。はっきり言ってウザい、と蜜柑は思った。面倒だけど愛想笑いをしながら話を聞いていた刹那。
「お待たせいたしまし……、え……っ」
店員がポテトの盛り合わせを持ってきたのだ。ナイスタイミングと思いつつも最後の言葉まで言わない店員を不思議に思い蜜柑は顔をあげた。
「え、……ルカぴょん?」
「佐倉……っ?」
ポテトを持ったまま口を開け、止まっている店員は確かに自分の知ってるルカぴょん。変な能力を持った人だけが入学を許されるアリス学園という学園に親友を追いかけて入学した。そのアリス学園で出会い、いつも一緒にいた仲間。金色のさらさらな髪に蒼い瞳に美しい顔立ち。大人になった今も目を惹くその特徴は変わらずに、美しい顔がさらに一層美しくなった。
「佐倉……だよね?」
「久しぶりやなぁ……。ルカぴょん変わってないんやね」
「佐倉は変わったね。髪も短いしなんか大人びた」
そう? と首傾げつつもそうだろうなと思う。なんてったってあの頃とは違う。笑う方法も人を愛することも忘れてしまったのだから。
テーブルの上にポテトを置いて流架は戻って行く。
流架の後ろ姿を見ながら柑は鼓動が速くなっていくのを、そして不思議な気持ちを感じていた。今でもまだ、昔の自分が心にいるのだと。
2010/09/04 up...
Back
[PAGETOP]
Next
TEMPLATE PEEWEE