白い空に色彩を
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01 記憶の片隅に散った笑顔
「佐倉さんー、こっち頼めますー!?」
「はい! 今行きますっ」
課長が開いた社内会議が終わったばかりなのに、会社の中は仕事一色で騒がしい。12月のこの季節になってから、特に忙しい。
大してやりがいのある仕事じゃないし、いい仕事があれば他の職に就きたいとも思う。けれどこの不況、どうにも経済力で選ぶほど仕事選びは楽ではないのだ。
「佐倉さん、お昼一緒でいい?」
「構わないけど。……三浦さんとなんて新鮮」
時刻を見れば12時30分。自分と仲のいい同僚、三浦さんのお昼休憩の時間。三浦さんは入ったばかりの新入りだが、2年前から入ってる自分より溶け込んでいる。同い年でオシャレな三浦さんは、先輩からも後輩からも受けがよく、いつも笑顔な人で真っ直ぐな人。
「佐倉さん、今日の夜って暇? ……あ、このメロンパン美味しいわぁ」
「そのパンの店有名だから。んー、夜は暇って言えば暇だけど」
「本当? 大学の友達と飲み会するんだけど、佐倉さんみたいな人がタイプの子がいてさ」
良かったら仲良くしてやって。と三浦さんは微笑むと、自販機の前に行く。元々お酒には弱いほうだから、飲み会なんて行かないんだけど。と考えるが仕方ない。折角仲良くなりはじめてる同僚の誘いなんだし。
ようやくチョココロネを食べ終え、自販機でココアを求め三浦さんの元へ行く。三浦さんは温かいコーヒーをフーフーさせながら飲んでいる。
「げ、佐倉さんココア!? パンも飲み物も甘いとか有り得ない!」
「苦いの嫌いなんだよね」
「意外と子供だね。なんかいつも冷静っていうか冷めてる感じだからさ、意外」
そうか、自分は冷めてるのか。と思いつつココアに手を包んでゆっくりと飲む。熱くて舌を火傷してしまったけど、甘くて美味しい。
自分は大人なんかじゃない。大人ぶってるただの子供でしかない。
休憩の終わりを告げるように、携帯が午後1時30分のアラームを鳴らしたのだった。
*
「佐倉先輩と亜衣先輩ー、今日あそこのお店行くって本当ですかぁー?」
「本当本当。大学のメンツの飲み会でさ。佐倉さんも誘っちゃった」
「奈々も行きたいなぁー! あそこの店、すっごく格好いい店員さんがいるらしくてっ!」
仕事も終わり、帰りの用意を更衣室でしていると、新入りの白根さんが話しかけてくる。彼女は3つ年下の女の子らしい女の子で、世間でいうぶりっ子キャラにあたる。自分たちの事をさん付けで呼ぶのを拒んで、「先輩」と呼んでいる。
格好いい店員さんがいるお店。それがどうしたことなのか。興味が無いオーラを出し、片付けを進める。三浦さんも片付ける速度を上げている。
「それじゃ、私はここで」
「ちょ……佐倉さん! 奈々ちゃん、また明日」
置いていかれて拗ねている白根さんは、しぶしぶ「さよーならー」と手を振った。先輩とか後輩とか会社内では関係ないのではないのだろうか。仕事は実績が命だし。
三浦さんは階段を急いで下りている。こうやって後輩に対して冷たいから、大人に見えてしまうのだろうか。
「佐倉さんってば。お店わかんないでしょ? だから1人で行かないでよ」
「ごめんごめん。……私、飲み会とか男の人とか基本嫌いだからさ。そこだけ理解して」
自分は何て可愛くないんだろう。
ニコニコする方法なんて、いつも楽しく居る方法なんて。とうの昔に忘れてしまったのだ。
もう記憶の片隅にしかない、あの頃に
2009/12/23 up...
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