天然
じょうろ片手に少し浮かれながら家のドアを開く。外に出ると陽の光が一杯に広がり、どこかでコケコッコーと鳴く声も聞こえる。
今日もいい天気だ、と思いながらも畑に向かって一直線に歩く。今日あたりにはカブができているはずだ。昨日はかなり実も膨らんでいたし、収穫できるだろうと踏んでいた。
「やっぱり収穫できそうだ」
9つの白いカブが実っている。大地の結晶のルーンに触れてまた嬉しさに笑顔になる。
1つ1つ丁寧にカブを収穫し、土や泥を綺麗に落としながら育ったカブを見て実感する。たった一週間前にここに来て、住む場所も働く畑も与えてもらい。それでいて不自由なく過ごさせてもらっている。このじょうろもクワも全て頂いたものだし。
そう思っているとふと思い出す。ミストさんはカブが大好きだったんだっけ。
8つのカブを収穫箱に入れて、もう1つのカブをリュックにしまう。一番白くて美味しそうなカブをミストさんにあげよう。
そうしてまた畑を耕して、昨日買ったばかりのキャベツの種を植える。そしてじょうろで水を注いで洞窟にでも行こうかと歩き出す。
確か洞窟の中にも畑があるんだっけ。季節が変わらないなら連鎖できるイチゴとかを植えようかな。イチゴの種を今度買おう。
そう思いながらミストさんの家の隣の道を歩いていると、扉が開いた。
「あ、ラグナさん!おはようございますー」
いつものような口調で和やかにさせてくれる。僕も微笑んで「おはようございます」と頭を下げる。そしているとミストさんは早足で近づいてくる。
なんだろう、と思いながら止まっているとミストは花のようにふわっと微笑んだ。
「ラグナさん、これもらってください」
「え?」
「昨日ロゼッタさんから頂いたんですけど…、あたしこういうの向いてないので」
差し出したミストさんの手にはイチゴの種が入った袋があった。
あんなにもミストさんをライバル視しているロゼッタさんが種をあげるなんて…、と思いつつもありがたく受け取る。イチゴの種は丁度ほしかったし。
「ありがとうございます。あ、」
リュックにカブが入っている事を思い出して、リュックの中から白いカブを出す。
そしてそのカブをそのままミストに差し出す。
ああ、せめて水で洗ってもっと土を落としてからにすればよかったかなと思いながらも差し出してしまったので仕方ない。
ミストさんはカブを嬉しそうに受け取って、またふわりと微笑んだ。
「初収穫品です。ミストさんのおかげで今の僕がいるようなものなので」
「カブだなんて嬉しすぎます」
優しくカブを撫でるミストさんを見て、綺麗だなと思う。
とんちんかんな発言さえしなければ綺麗なのに、どうして史上最強といっていいほどの天然なのだろう、この人は。
まあ、そこがいいのかもしれないなと思ってふふ、と笑う。
「よかったら食べてください。種もありがとうございます」
そう告げてまた歩き出す。このイチゴが育ったら貰ってくれるのだろうか。
誰かにプレゼントする、と思うとなんだか楽しい。
「またカブの種を買いに行こう」
彼女の幸せそうに微笑む顔を見れるなら、いくらでも。
◇
「いらっしゃいま…あーラグナ!ミスト見なかった!?」
「さ…っき会いましたけど…?」
雑貨屋に入るなりロゼッタさんに声をかけられた。しかもかなり怒っているというか不機嫌そうだ。またミストさんが何かやったのか。
そうロゼッタさんに問うと、口を尖らせながら言い放った。
「種、とられたのよ」
何でも、昨日店の掃除をしているところにミストさんがやってきて、種を持っててほしいと言って種を持たせたら、そのまま帰ってしまったらしい。
その話を聞いてはっとしてしまう。
「その種って…イチゴの種…です…か?」
「ああ、イチゴの種だったわよ。…ラグナ知ってるの?」
「種もらったんです、ミストさんに。…もう植えた後なんですけど…」
えー!?とロゼッタさんが驚きながら口をへの字にする。
やっぱり確認するべきだった。あの時にちゃんとミストさんにもらい物だったのか聞けばよかった。はあとため息をつくとロゼッタさんが肩をぽんぽんと叩く。
「じゃあ、ラグナの出世払いということで」
にっこりと微笑んでいるロゼッタさんの目が笑っていなくて、つい「はい」と返事をしてしまう。あのイチゴは本当に大切に育てよう。
そしてラグナは罰悪そうに、カブの種を買って雑貨屋を後にした。
畑につくとミストさんが笑顔で「カブ美味しかったです」と言っている。
やっぱり、彼女の天然ぶりは可愛いを通り過ぎている。さすがに駄目だと思う。
「もう、勝手にしてください」
そう呟くのがやっとだった。
2010/06/20 up...
[PAGETOP]
TEMPLATE PEEWEE