18の誰かを連想する御題

これが一番似合うはず


「よし」

たくさんの綺麗なロザリオの手土産が置いてある、有名な教会の近くのこのお土産屋さん。一つ一つ手にとって宙に浮かべて、そして大好きなお姉さまを想像し一番似合うものを会計場所に持っていく。無垢な白さがあるシンプルなロザリオだけど、どこか志摩子さんに似ていてどこか自分にも似ている。志摩子さんに買っていくお土産はロザリオって決めていたけど、ここまで数があると困ってしまう。けれどゆっくりロザリオを見ているうちに、絶対に志摩子さんに似合うものを選ぼうと思うようになっていた。

何故自分がこんな場所にいるかというと。
この近くには有名な教会があると同時に、マニアしか知らないようなお寺がひっそり建っている。教会の傍を通らなければ行けないので、せっかくだから志摩子さんにお土産を買っていこうと思ったのだ。

「こちらは包装致しますか?」
「あ、お願いできるなら。……出来るなら教会らしいような……そんな包装の仕方でお願いします」
「かしこまりました」

こういう要望は結構あるのだろう。当たり前のようにそういった教会関係のラッピング用の袋や紙が多い。手馴れた手つきでロザリオを綺麗な袋に入れ、最後にキュッと袋の上の部分を束ねる。
ああ、とロザリオが姿を消してから思った。手紙くらい入れておけばよかった。

自分でまた包装し直すのも一つの手だと思うが、やっぱりもったいない気がしてならないし。そんな事を思っていたら、店員さんが笑顔で品を差し出した。もちろん、笑顔で手にとって店を出る。手紙は諦めて口で精一杯伝えればいいのかもしれない。

「その方が気持ちが伝わるもんね」
「……あれ、乃梨子ちゃん?」
「祐巳さまっ!? どうしてこちらにいらっしゃるんですか?」
「家族で来たの。そこの教会の奥に観光地あるの知ってる? お母さんがそういうの好きでさー」
「そうなんですか! ……かなり驚きましたよ、こんな所で会うなんて」

そうだねー、と祐巳さまは微笑んで持っていた包装されたロザリオを見た。
「それ、志摩子さんに?」と祐巳さまはひょいとロザリオを持ち上げて中を透かそうとした。そしてお店の中をちらりと覗いて「そっかそっか」と頷いていた。

「これ、ロザリオだったりする?」
「だったりすると言うより、その通りです」
「いいわねー。……志摩子さんも喜ぶだろうよ。時間かけて選んだんだもんね、きっと」
「はい。……これが一番似合うかなと思って勝手に時間かけただけですけど」
「それがいいんだよ。……いいなー。あ、瞳子には内緒だよ? ふふ、お幸せに」

お幸せに、と言っている祐巳さまが持っている袋にはきっと瞳子にあげるお土産も入っているのだろう。ほころんだ祐巳さまの笑顔を見れば見るほど、お姉さまに逢いたくなって。その後、祐巳さまと別れを告げて教会の横を通り過ぎていく。ゆっくりゆっくりと。
今はいないけど、自分の隣にはいつも大好きなお姉さま、志摩子さんがいて。
幸せ、だと思う。

「……志摩子さん、喜んでくれるかな?」

自分の持っている袋を抱きしめ、呟いた。
志摩子さんにはこのロザリオが一番似合うはず。そして志摩子さんの隣も自分が一番似合うはず。
……なんて。


「早く明日にならないかな」



通り過ぎた教会では、幸せそうな声とブーケを投げている花嫁姿がキラキラ瞳に映っていた。
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