18の誰かを連想する御題

敢えて誰とは言わないけれど


「……志摩子さん、」
「ええ、わかってるわ由乃さん。……きっとそうよね」
「やっぱり……そうだよね」

目の前に吊るされているのはてるてる坊主。……いや、マジックで毛が書かれているから坊主ではないのか。今日祐巳さんは瞳子ちゃんと明日の休日に遊ぶ約束をしてるらしいので、その詳細を決めるそうで遅れている。とりあえず、こんな子供らしい……と言っては失礼だが、そんな事をするのは祐巳さんくらいだろう。

薔薇の館には、一年生も来ていなくてもちろん三年生は一番忙しい時期のため来ていない。朝早く来て吊るしたのだろうか。お昼はみな、教室で食べたし。志摩子さんは「祐巳さんらしいわね」と微笑みながら、てるてる坊主をまじまじと見つめている。

「……敢えて誰とは言わないけれど」
「てるてる坊主が、二つ縛りの髪型してリボンを付けているし」
「どう考えても……ねえ?」

明日は瞳子ちゃんと遊ぶ日だから、晴れて欲しいのはわかるけど。ここは薔薇の館であって祐巳さんの家でもなければ、私有地でもないと思うんだ、私は。まあてるてる坊主は見てて微笑ましいから、別にいいとは思うんだけどさ。

そんな風に二年生二人でてるてる坊主を見つめていたら、ギシギシという階段を上がる音が聞こえた。祐巳さんだったら、このてるてる坊主をここに吊るした意味を聞きたいくらいだ。なんせ、吊るしてある場所は窓付近ではない。というより、扉を開けてすぐに吊るしてある。

「遅れましたーっ! って、どうしたんですか?」
「ふふ、乃梨子はこのてるてる坊主誰のだと思う?」
「……っと、祐巳さま……ですか?」
「やっぱそうよねー。……乃梨子ちゃん、祐巳さん見た?」

乃梨子ちゃんは「いえ」と首を横に振った。どのみち今日は終わらせなくちゃいけないという仕事も特にはないし、ゆっくりするだけゆっくりすればいい。薔薇の館でなはない場所で二人きりになりたいのかもしれないし。
ふう、と軽くため息をつき、両手を上に上げて伸びる。

「敢えて誰とは言いませんけど、これ作った人は明日が待ち遠しいんでしょうね」
「……その心は、」
「てるてる坊主の効果は晴れ、です。天気も気持ちも晴れ晴れと、……でしょうか」
「さすがは乃梨子ちゃん」

確かに、祐巳さんにとっては待ち遠しいのだろう。姉妹になって、2回目のデート。天気予報では曇りだったけど、祐巳さんは晴れにしたいのだろう。
乃梨子ちゃんの言うように、天気も気持ちも。


来年になったら、菜々が入ってくる。
果たして、菜々は私の妹になってくれるのだろうか。……令ちゃんは卒業してしまうけれど。

「……妹、か」

菜々の目当ては私じゃない。……敢えて誰とは言わないけれど。
まあそんな事は来年の話。今はただ明日の祐巳さんのために晴天を願っていてあげようか。



その後、瞳子ちゃんがてるてる坊主を見て、優しく微笑んだのはまだ先のお話なのでした。
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