好きだから
__好きなんだ、きっと今も。
*
「流架くんも、あんな馬鹿を好きになるなんて物好きねぇ……」
ふふ、と不敵な笑みを浮かべながらくる少女。いつの間にか今井といる時間が増えた。理由は明確なんだ。佐倉と棗が最近、ようやく付き合い始めたから。机に腰掛けて眺める先には、棗とじゃれ合っている幸せそうな佐倉の姿がよく見える。あんな幸せそうな顔自分には見せてくれない。と心で嫉妬が生まれるが、すぐに消し去る。
棗と佐倉が幸せなら、ただそれだけでいいのだから。
「別に。……もう諦めたさ」
「……のわりには、未練たらたらな顔してるわよ」
案外演技が下手なのね、と微笑した今井は自分の席にある荷物を片付け始めた。そして俺の机の上の荷物も手にし、目の前に差し出した。反射的に目の前に出された自分の鞄を手に取ってしまう。
今井は教室から姿を消す。珍しく、佐倉たちに声をかけずに下校準備をし教室から出て行ってしまった。またも反射的に今井のあとを追いかける。廊下にまで聞こえる佐倉の声。
「……今日は声かけないの?」
「たまには二人にさせるのもいいんじゃない? それに私は、流架くんの為を思ったのよ」
「……は?」
辺りは暗くなり始め、昼間とは違った景色を見せる。廊下の電気が強く主張している。誰も居ない突き当たりまで来ると今井は止まり、ゆっくりと後ろを向いた。そして、俺がついて来ている事、佐倉たちが来ていないことを確認してまた前を向く。
疑問には答えようとしない姿に呆れるが、それより先に今井はまた歩き出してしまった。さっきの答えが気になってしょうがないので、後を小走りで追いかける。
「今井っ!」
「……貴方がそんな不機嫌そうに居ると、蜜柑たちが心配するわ」
だから、無理して笑わなくていい。と優しく微笑んだ。
俺は無意識にも両手を頬に当て、笑顔が無理そうに見えているのか、と確認してしまう。
ははっ、と苦笑して頭をかいた。自分の金髪がサラサラと流れて無様で仕様が無かった。どうしてこうも演技が下手なのか。彼女が目ざといからかもしれないが、心の整理ができずにため息をつく。
「まだ好きなんでしょ? あの子のこと」
「……、きっとね」
「なら好きで居ればいいじゃない。棗くんや蜜柑の気持ちはどうであれ」
さっさと帰って休みなさいよ。と声を残して今井は自分の部屋に戻っていった。自分の部屋に入って、電気もつけずにベットに倒れこむ。
__自然と頬に涙が伝った。
きっと誰かに聞いてほしかった。わかってほしかった。目を閉じると、佐倉の笑顔がすぐに浮かぶ。とても幸せそうな笑顔が。未だに好きなんだ。けれど、無理に諦めなくていいじゃないか。
___好きだから、好きでいるだけなんだから。
2009/12/21 up...
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