白い空に色彩を
01
02
03 記憶の奥深く、
「ふーん、佐倉さんってあんな顔するんだ」
さっきの流架とのやり取りを見ていたのだろう。三浦さんが突然口を開いた。そ して自然な流れのように蜜柑の出す答えを待っている。
それがわかった蜜柑は三浦さんを見つめて、明るめな声で聞き返す。
「何?どんな顔だった?」
「なんか普通に可愛い顔してた。……で?彼氏なの?」
「まさか。ただの同級生」
「同級生」なんて言葉で簡潔にまとめられるほどのちっぽけな関係ではないけど わざわざ自分がアリス学園の生徒だったと言うのも面倒だ。能力者なんだと三浦 さんに告げて関わり方や接し方が変わるのも嫌だし。
三浦さんは「へぇー」とだけ呟いて流架が戻って行った厨房を見ている。
「ね、奈々ちゃんが言ってた格好いい店員さんってさっきの人じゃないの?」
「……そうかもね」
今になって少し後悔。白根さんの話をもっと聞いておけばよかった。金髪で蒼い 瞳なんてわかりやすい特徴でも聞けば少しは流架かもって気持ち持てたのに。
三浦さんとぽつぽつ話ながらいるとポテトをつまむ小林くんがつまらなそうに呟 く。
「佐倉さん何歳なの?さっきの店員かなり大人っぽかったけど」
「言ってないっけ?26歳よ」
そう蜜柑が言うと、声をあげたのは小林くんではなく三浦さんだった。
「うっそ!あたしより2つも年上なのっ?てっきり同い年だと……っ」
「若く見られてるならいいけど」
通りで大学メンバーが子供っぽいわけだ。三浦さんだけなら同い年に見えても小 林くんたちはちょっと幼い。
まだ小林くんはつまらなそうにしたまま、グラスに注がれているお茶を飲む。 メンバーが集まるまでお酒は飲まないルールらしい。
「普段は関西弁?」
「いや、学園卒業してからは標準。懐かしい人に会うと昔の癖でつい」
「ふーん」
そっけなさそうに頷く小林くん。さっきまでと全然対応違うんだけど、と思いな がら蜜柑はポテトを摘んだ。
静かになったならいいか、と蜜柑は三浦さんに目を向けた、が。
「何にやにやしてんの?」
「ふふっ、だって小林ったら子供みたいに妬いて!」
ふはははっ、と笑いながら三浦さんは小林くんに「佐倉さんは諦めな、あんだけ 格好よくても同級生なんだから」と言って、目尻に溜まった涙を手で拭いた。
小林くんは頬を赤くしながら「うっせーよ!」と言って飲み物を飲み干した。な んか照れた顔とか焦り具合とか、美咲先輩のことでからかわれてた翼先輩を思い 出してしまう。
昔の辛かったけど楽しかった日々。優しく光り輝いていた日々。
蜜柑は目を伏せて微笑しながらお茶を飲んだ。
「でさ、聞いたことないけど佐倉さんて好きな人いる?」
「三浦っ!おま、そういうの聞いてから連れて来いよっ」
「ごめんごめん。……で?どーなのよ、佐倉さん」
蜜柑は一瞬言葉に詰まった。
しかし次の瞬間には意味深に口元をあげた。
「どうだと思う?」
「俺は、いないに1票!」
「へぇー……、三浦さんは?」
「うー……、さっきの店員は同級生なんでしょ?ならもっと格好いい人が彼氏に いるとか?」
え、とまたも言葉に詰まってしまう。
はっきり言えば今彼氏はいない。けれど。けど。
「……っ、いないわよ彼氏なんて」
いない、いない。彼氏なんて今はいない。いないんだ。
自分に言い聞かせるように何度も何度も心で呟く。でないと今にも泣き出しそう になる自分がいて。泣き出したら三浦さんたちに迷惑をかけてしまう。
三浦さんも小林くんも何かを感じてくれたようで、その後の追求は一切なかった 。
「ま、忘れらんない人がいてもいいんじゃない?」
「……別に忘れられないわけじゃないの」
「へぇ?」
ただもっと深い深い気持ち。忘れられないんじゃなくて、忘れようとしても忘れ られない。
ただ、それだけ。
「……あ」
「どうかした?」
「ほら、後ろ……」
「え?……あ」
そこには店の制服姿ではなく私服を身にまとった流架の姿があった。
2010/12/11 up...
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