花のかんむり
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02 箱入り姫と野菜売り少年
「……ここ、何?」
「お前ほんとに箱入り娘なんだな。八百屋だよ、八百屋」
「八百屋? この店の名前か何かなん?」
そう言って棗の方を見ると、呆れ半分で「そんな感じ」とため息交じりに呟いた。箱入り娘、というより城から出ると危険と言われ育ったのだから、外を知らなくて当然で。毎日そんな事を言われてたから、逆に興味を持ってしまいこんな事になったのだけど。
鮮やかな色をした野菜や果物が並べられている。驚いたのはその価格。とんでもなく安い。これは本当に人の手で育てて、不良品ではないのか無農薬なのかと心配するくらいに。
「……無農薬に決まってんだろ。つかこの価格は当たり前だっつーの」
「そうなんや! へえー、城下町って貧乏なん?」
「ちげーよこの箱入り娘」
ぎゃーぎゃーと言い争っていると、八百屋さんの亭主さんがエプロン姿でやってきた。 とりあえず、自分は棗に言われたように変装をしている。とはいっても眼鏡をつけたり宝石を外したりしただけだけど。だから勘のいい人じゃないと気づかないだろうし、気づいたとしてもよほどの問題は無い。ただ、城に連れ戻されてしまうけど。
棗は袋につまった野菜や果物を一つ一つ丁寧に八百屋さんに出している。そしてお金を貰う。これで売買は成立するのだろう。
「日向さん、これからも頼みますよー」
「こちらこそ」
そういうと来た道を戻って行く。せっかく両手が空いたんだから、と棗の横に行く。そしてポケットに入りそうになった棗の手を左手で掴み、握る。
「……な!?」
「えーやん、減るもんやないし。……これからどこ行くん?」
「俺は帰る。お前はどうしたい?」
「そやな、……帰るわ。ええ加減父上も母上も心配するやろうし。怒ると怖いかんなぁ……」
ぶつぶつと言っていると、心なしか棗はさっきより強く手を握り返してくれた。
『離れたくない』
本当に本当にそう思った。棗とずっと一緒にいたい。城になんか戻りたくない。
ドレスの裾がひらひらと風に揺れる。眼鏡を外してネックレスを再びつける。変装していない自分はもう「蜜柑姫」であって。
「……じゃあな、蜜柑」
「――っ! 約束やで! また城を抜け出すから! また棗に会いに来るから!」
「ああ。……俺もあの時間あそこに行く」
「やくそく、」と言って握っていた手を離す。
そしてお互い反対方向に歩いていく。自分はまた、土まみれになって城に戻る。抜け出す楽しみがまた一つ増えた。脱走する喜びが増えた。幸せが少しずつ増えていく。
「……やっぱ城下町は楽しいなぁ」
◇
「……ふーん、あれが蜜柑姫」
「鳴海……っ! いくら何でも誘拐とかは駄目だからな!?」
「わかってるって。岬くんは心配性だなー」
そう岬に言い放った鳴海は、冷えた目をして蜜柑を見つめていた。
2010/04/10 up...
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