花のかんむり
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01 脱走常習犯姫と城下町に住む少年
「……よし、」
薄オレンジ色のドレスを身にまとい、綺麗な宝石を腕やら首やらに巻いて足には煌びやかな靴。何故、室内なのにこんなにも派手な格好をしなくてはいけないのか。と思いつつ窓の縁に足を乗っけて、次に足場になる場所を目指してジャンプする。
毎週のようにやっているこの城脱出もかなりの腕前になってきたと自分で思える。城にいる人たちの隙をついて部屋にこもり鍵をかける。そしてカーテンを開いて窓を開ける。ここは三階。だけど要らぬ飾り付けされた城は足場になる所がたくさんあって簡単に降りれる。何度も繰り返しやっていくうちに壁のでこぼこにも慣れて掴みやすいところをちゃんと掴める。
下は落ちても大丈夫なように一度抜け出したときに、裏庭の大きな木の落ち葉をたくさん置いていた。幼稚な知恵だけど、あるないで考えればあった方が全然いい。
「城下町はいつ行っても楽しいかんなぁ」
今日はどこに行こうか、と考えれば考えるほどわくわくしてきて手と足に入る力も自然と強くなる。最後に一メートルあるかないか位の高さから飛び降りて、脱出成功。
城の裏の方だから見張りも門番もいない。いたとしても走れば問題ない。そして城の柵の下に掘った穴をくぐって。蜜柑色したドレスに少し土色が混じったその時だった。
「……お前、いつもそんな事してんのか」
強く凛とした声が上から聞こえて慌てて顔を上げる。そこにいたのは黒い髪の毛を風になびかせ、燃える様な紅く真っ直ぐな瞳の少年だった。背格好から見て自分と同じような歳。着ている物はまあまあ高価そうで。
「……えっと、あんた誰なん? あ、うちはこの城に住んで――」
「知ってる。蜜柑姫、だろ? 俺はあそこの普通の家に住んでる普通の町人の日向棗だ」
「そーなんかー! あー、見苦しいとこ見せたな。へへっ、内緒やで?」
棗と名乗った少年は買い物帰りらしく、両手に袋を持っていてその中もぎゅうぎゅうだった。城下町に下りたことはあっても、こうやって町人に会って話す事は無かった。……少し嬉しい。
棗はじっくりと袋を見ていた視線を感じたのか、袋から苺のパックを取り出して一粒差し出した。
「……食えよ」
「えっ、……ありがとうな」
苺をつまみ口へ運んでく。真っ赤に染まった小粒の苺は口の中で噛めば噛むほど甘くなる。城でたまに果物を食べるけど、ここまで美味しい苺は初めてだ。そう言葉にすると棗は「家で作ってんだ」と話した。お父さんと妹と一緒に作っていると。
話を聞けば聞くほど、彼に興味が沸いていく。袋の中のものは全て野菜やら果物やらで、これから市場とか八百屋さんに出荷しに行くそうだ。買い物帰りではなく、その逆だったというわけだ。
「……お前も、来る?」
「もちろん行くに決まってんやろ。……それと、うちの事お前やのうて蜜柑って呼んでーな!」
「じゃあ、俺も棗でいい」
最初からそういうつもりやから、と微笑むと棗も少し笑ってくれた。
2010/04/19 up...
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